兄の夢

  兄の夢を見る
  兄の通う学校へ向かう
  各駅に停まる列車を選ぶ
  あえて特急に乗らず
  狭い車内は込み合っている
  なぜか真っ暗だ
  乗客の気配はあるが見えない
  運転席の横に乗車
  運転手が渋い声で言う
  「座席詰めてくれんかな」
  「詰めるってどうやって?」
  運転手は前を見たまま
  片手で私の横の座席を下に引っ張る
  何とそこから補助席が出現
  驚く自分だけが浮いている
  この列車の常識らしい
  各停ではなかなか進まない
  特急列車に何度も追い越される
  各停に乗ったことを今さら後悔
  私の後方の闇の中から
  兄の名前がさかんに聞こえてくる
  誰かが兄の噂をしているようだ
  耳をそばだてる
  運転手がおもむろに言う
  「あの人は学校の先生だ」
  うなずきながら運転手に告白
  「実はその弟なんです」
  「なるほど似てると思ったよ」
  「あんたの兄さんは評判いいよ」
  
  いつの間にか兄が登場している
  「帰りはどうするんだい」
  「一本遅らせると帰れなくなるよ」
  確かにそうだと思う
  でも兄と一緒に帰るのを躊躇する
  兄といつまでも一緒にいたいのに
  
  目が覚めた
  今日は兄の誕生日
  兄はこの世にいない
  偶然では片づけられない夢
  兄は私と一緒にいる