老夫婦

 私の前の席に老夫婦がいた。老婆が年老いた夫の割り箸を割り、お酒を注ぎ、それがいつものことであるかのように、せっせと世話をする。夫は、ただひたすら無表情に酒を飲み、遠くを凝視したりする。とても微笑ましいという雰囲気ではない。何かいいようのない寂しさを背負っている感じだ。この老夫婦はどんな人生を歩んできたのであろうか…。それは、まるで我が両親の姿にだぶって見え、目頭が熱くなる。父には、何もしてやれなかった。もう一度、酒を酌み交わしたかった。せめて母には親孝行をと思いながら、その機会を逸したまま旅立った。人生とは、老いるとは何だ・・・。答えの出ない問いを自分に課しながら、老夫婦の行く末を祈った。